日本テレビに意見書を提出した経緯と、運営スタッフが感じていること
9月22日に、全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会、きょうだいの会ファーストペンギン、NPO法人インフォメーションギャップバスターと連名で、日本テレビに「ヤングケアラーについての放送のあり方についての意見書」を提出しました。
https://drive.google.com/file/d/1oMJ7J-qmr9L7Q6OaFmyXRTrtYcfGiEup/view?usp=sharing
きっかけは、ふとテレビを見ていたスタッフのモヤモヤ。
https://www.ntv.co.jp/fukaii/articles/346nmylt6mwh2iic9yx.html
この放送を見たスタッフは愕然とし、ショックを受け、この気持ちや原因はなんだろう?と運営内でやりとりが始まったのです。
エピソードや会話と共に、意見書を出すに至った経緯を掲載します。
【自分の存在意義】
「障害のある兄・姉がいる下の立場だけど、上の子を助けてほしいという放送をされると、自分の生まれてきた意味は何なんだろう?と考えてしまう。実際、自分は姉や兄でも書けるように、とひらがなの名前をつけられたことを知って、すごく傷ついた。後日親に聞くと、『言ったこと自体覚えていない。確かに名前を書けるのはいいことだなと思ったけど、一人一人愛情を込めて名前をつけた。』と。こういう親子のすれ違いを経験して辛かったけど、今回の放送もそういうきっかけにならないか心配。」
【狭められる選択肢】
「人生のあらゆる選択の場面において、こういう周囲の対応や態度、意見なども大きく影響してくるのでは?自分は2つ上の知的障害の姉と同じ学校に通っていたが、行事などでペアを組む時は必ず姉と一緒だった。当時はそれが当たり前だと思っていたけれど、自分が選んだ他の誰かとペアを組む、という選択肢が無かったことに後から気が付いた。ペアを組むためのコミュニケーションを楽しむ機会もなかった。」
【暗黙の圧】
「『障害児を守るのはきょうだいの役目である』という考えは、時にきょうだいに無言の圧を加えたり、傷つけたりすることがある。私は自分を守るために、姉を無視したり友達と話を合わせていた。こうした背景から先生に『みんなが姉をいじめるのは、きょうだいであるあなたたちが姉をいじめるからだ。』と言われていた。また姉の失敗を指摘したり、出来ないことを代わりにやったと少々不機嫌に言うだけでも、いじめていると言われたことがある。ただ、自分が虐められないように、守っているだけなのに。じゃあ姉も守ろう、と思っても嫌がらせやいじめはなくならないし、嫌がらせや悪口を見聞きする度、姉を守れない自分が不甲斐なく感じてしまった。」
【進路選択への影響】
「進路選択の際も『自分が姉の世話をしていく』という考えが影響した。その際、特に大切にしていたのは『自分がどう生きたいか』ではなく、『姉とどう生きていくか』だった。進学は福祉について専門的に学べる高校を選択したものの、他に家を出てやりたいことがあった。そんな中『きょうだい児』という言葉を知り、同じような立場や思いをしている仲間がいることがわかった。今では家を出て学ぶ機会を得て、自分のやりたい道に進むことができている。また自分の道を進むことが、結果的に姉も救える道であればいい、と考えるようになった。」
こんなエピソードを話しているうちに、
「小さい子どもに面倒を見させるのをよしとする、良いことと周りが評価するのは違うよね。」
「自分の時間(遊びたい気持ちなど)もあるんじゃないかな?」
「君にしかできないこと=守ること、という教えは、その子の人生の選択肢を狭めているし、自分が主役として思えなくなってしまいそうだよね。」
「親には『あなたは大切な存在なんだよ』と言われたいよね。」
「成長した時の親子関係、人間関係が崩れないか心配。」
「大人になってから、自発的に障害のある本人を助けたいという気持ちになるのと、幼少期から教えるのはわけが違うよね。」
と、ヤングケアラー問題に取り組む運営スタッフもいる中で、やはり見過ごせない事案だと判断。きちんとした形で声をあげて、批判するのではなく、社会全体として考えていきたいと意見書を出す結論に至りました。
ファーストペンギンは、スタッフ含めてありのままの気持ちや想いを話せるグループを目指しています。
そんな私たちは今回の放送を受けて、自分の気持ちや想いが言えなくなってしまう、わからなくなってしまう人が増えてしまうのではないか?傷つく人が出ないか?と、とても心配だったのです。
もちろん、親の気持ちや考えを否定するつもりはありません。
ただ、何気なく放った言葉にはその先があること、もし溝ができてしまったらそれを埋めるようにコミュニケーションを充分に取っていくこと、などそれぞれが考えていくのが大切なのではないでしょうか。
今回の件を通して、それぞれの立場の人が自分らしく生きる社会にするためにどうしていくか、考えるきっかけにになればと願っています。
参考:
ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチームとりまとめ報告